型屋
小学校の前を車で通った時に
思い出した
下校の時刻
学校の正門前にゴザ広げて
怪しげな物売りをするおじさん
その日 正門の少し向こうに
ランドセル背負った集団
お祭りの様な空気にのみこまれ
迷いなく輪の中に入った
そこにあぐらかいたおじさんと
銀色に光る5cmぐらいのキャラクター
ハイスクール奇面組
ご存知だろうか
やたらに流行ったこの漫画
思い出しながらこの話書いてるけど
5人ひと組のグループがたくさん出てくる漫画で
当時知らない子はいない
ジャニーズの様にどの組が好き
どの組の誰のファン
そんな炸裂した人気のキャラクターが
目の前にあった
欲しいに決まってる
今なら1こ100円にしとくよ
おじさんの言葉がまるで天使の問いかけに聞こえる
集団が一斉に走り出した
各々多方面 各自の家に
満面の笑みに溢れてる
僕も走った 誰よりも速く
学区の1番外れの僕の家
負けてたまるか
何に負けたくないかは不明だ
満面の笑みは続行中
家に着き
ただいまの声もほどほどに
100円握りしめ走り出す
妄想は無限に広がりだす
疲れなんか感じない
あの角を曲がれば奇面組がいる
角を曲がった
まだらにランドセルが見える
急いで商品の前に立つ
あれ ?
あれ ?
何が起きたのかわからない
目の前にあるのがデカイ
キャラクターは同じだ
だけど デカイ
さっき見たより3倍はデカイ
おじさんが言った
今なら500円にしとくよ
その場にいた女子達が
緊急ミーティングを始め出す
どうする? 買う? お母さん言ってみる?お母さん連れて来ようか
友達が聞いた
小さいのはどこですか
あれはもう売れたよ
この世の終わりぐらいの気持ちだ
おじさんが言った
今なら大きいの300円にするよ
女子達の声が大きくなる
買おうか 買おうか どうする
僕と友達はアイコタクトもなく
走り出す
さすがに疲れて来た
子供は風の子とはいえ
学区の1番外れだ
事実 隣の小学校の方が近い
近所とは言えない徒歩30分の距離
しかし 満面の笑みだ
300円握りしめ正門前到着
あ!
おじさんが帰ろうとしてる
他に誰もいない
まって まって まって まって
魂の叫び
間に合った
大きい声で言った 奇面組ください!
ああ もうこれしかないよ
ウルトラマン
小さいウルトラマン
おじさんは言った
今なら300円にしとくよ
パニックに陥る
無いと言われた
ウルトラマンに変わった
小さいウルトラマン
僕がほしいのは奇面組
小さいのに300円
僕は言った
それください
手のひら ウルトラマンを見ながら
歩いて帰った
何故 買った
今 思えば買わない選択肢は
なかった
夕暮れ 怪しげなおじさん
二人きりのシチュエーション
呼び止めた変な責任感
今ならという甘いセールス
手ぶらで帰りたくない気持ち
次の朝
授業前に先生が言った
昨日正門前に物を売る人がいました
絶対に買わないでください
一度きりで二度と現れなかった
おじさん
怪しげな事この上ないおじさん
持って帰ったウルトラマン
なんでそんなん買ったん
冷たい兄のお言葉
後に漫画こち亀だったかな 出て来た
全国に出没した 型屋というらしい
今だとおまわりさん呼ばれそうな
新鮮な出来事 思い出に感謝してる
全て実話です
友達は
大きい奇面組 持っていた
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